3-3 同時CPU、メモリ、ストレージ、ネットワークのピークを評価する設計思想

システム障害は、単一リソースの限界によって発生するとは限りません。
むしろ多くの場合、CPU・メモリ・ストレージ・ネットワークといった複数のリソースが同時に逼迫することで、連鎖的に性能劣化が進行します。

3-2ではピークワークロードを特定しましたが、本章では一歩踏み込み、**「同時ピークをどう評価するか」**という設計視点を整理します。

単体の最大値を見るのではなく、ピークが重なった瞬間の状態を想定する。
将来のトラフィック増加を見据え、安全係数をどう設定するかを考える。
理想的な負荷試験ができない場合でも、どのように設計根拠を残すかを検討する。

同時ピーク評価は単なる数値確認ではなく、システムを守るための設計思想です。


1. 単体ピークから「同時ピーク」へ

3-2では、CPUやトラフィックなどのピーク値を特定しました。

しかし実際の障害は、

単体ピークではなく、複数リソースの同時逼迫

によって引き起こされるケースが多くあります。

例えば:

・CPU使用率 80%
・メモリ使用率 70%
・ストレージI/O上昇
・ネットワークスループット増大

それぞれは許容範囲に見えても、同時に発生すると状況は変わります。


2. 同時ピークが引き起こす連鎖

リソース逼迫は単発では終わりません。

・CPU高負荷 → スレッド待機増加
・メモリ逼迫 → GC頻発・Swap発生
・I/O増加 → レスポンス遅延
・ネットワーク遅延 → タイムアウト増加

これらが連鎖すると、処理待ちが増え、さらなる負荷上昇を招きます。

重要なのは、

個別80%は耐えられても、同時80%は危険域になる

という認識です。


3. メモリを軽視しない設計

CPUは監視されやすい指標ですが、実務ではメモリがボトルネックになることも多くあります。

バースト時に起こりやすい事象:

・キャッシュ肥大
・同時接続増加
・ヒープ圧迫
・OOM発生

そのため設計目標として、

・CPU:80%未満
・メモリ:70%前後
・I/O:飽和点未満

といった「余力基準」を設定することが望ましいです。


4. 将来トラフィックと安全係数

ピーク値は“現在”の値に過ぎません。

サービスは成長します。

例:

・現在ピーク:1,000 req/sec
・将来想定:1.5倍(1,500 req/sec)

負荷試験では1.5倍のトラフィックを流し、

・CPU 80%以内
・メモリ 70%以内

を目標とします。

この「1.5倍」は、

設計上の安全係数

です。

安全係数を明文化することで、設計の説明責任が明確になります。


5. 理想的な負荷試験ができない場合

実際には、

・シミュレーター性能制限
・検証環境のスペック不足
・コスト制約

により、想定最大値を直接検証できないことがあります。

その場合の実務的判断:

1.試験可能な最大トラフィックを流す
2.その時のメトリクスを取得
3.想定最大値との差分を比で推定

例:

・試験可能:1,000 req/sec
・想定バースト:1,500 req/sec
・CPU 60%(1,000時)

比例推定:

60% × 1.5 = 90%

許容上限(80%)を超えるなら、

・インスタンス増設
・スケールアウト前提設計
・スロットリング導入

を検討します。

ただし、

負荷は必ずしも線形ではない

という前提を忘れてはいけません。比例は目安であり、保守的判断が必要です。


6. スロットリングという設計思想

すべてのピークを物理的に吸収しようとすると、コストは増大します。

そこで有効なのが:

・レート制限
・同時接続数制御
・キュー制御
・優先度制御

目的は、

完全停止を防ぐこと

です。

「全処理を守る」のではなく、

「重要処理を守る」

という思想が重要になります。


7. オートスケーリングの活用と限界

クラウド環境では、
Amazon Web Services
Amazon EC2 Auto Scaling のような仕組みにより、自動スケールが可能です。

CPUやカスタムメトリクスをトリガーにインスタンスを増減できます。

しかし:

・スケールには時間がかかる
・急激なバーストには間に合わない可能性
・メモリ逼迫は即時解決できない

といった限界もあります。

オートスケーリングは有効ですが、

設計思想の一部であり、万能ではない

と理解すべきです。


8. 設計根拠を残す

重要なのは、判断の根拠を明文化することです。

・試験可能範囲
・想定最大トラフィック
・安全係数
・比例推定値
・許容基準
・採用対策

負荷試験は、

正解を証明する作業ではなく、設計リスクを定量化する作業である

という視点で行うべきです。


まとめ:同時ピーク評価のポイント

・単体ピークではなく同時ピークを評価する
・CPUだけでなくメモリの余力を重視する
・将来成長を見込んだ安全係数を設定する
・試験制約がある場合は比例推定で根拠を残す
・スロットリングで完全停止を防ぐ
・オートスケーリングは補助的手段と捉える

同時ピーク評価は、単なるメトリクス確認ではありません。
それは、

システムを守るための設計思想

です。

数値を並べるのではなく、
「どこまでを許容し、どこから守るのか」を明確にする。

それが、安定したサービス運用の基盤になります。

本記事の内容は、次項目に対応します。
Link:IT infrastructure system operation for remote areas(遠隔地向け IT インフラ運用)
3-3 Design philosophy to evaluate concurrent CPU, memory, storage, and network peaks
(同時CPU、メモリ、ストレージ、ネットワークのピークを評価する設計思想)

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